事例紹介:三菱マテリアル株式会社様 前編

この事例では、Enterprise Architectを利用してアジャイル開発を行っている三菱マテリアル株式会社の事例をご紹介します。

プロジェクトの背景と展開

(文中の敬称は省略しています)

三菱マテリアル株式会社は非鉄製造の業界最大手であり、約280社のグループ会社を有している。多様な事業を展開しているが、その一方で事業環境の変化への柔軟な対応を行わなければならないという課題がある。

この課題を解決するために、SCMシステムの再構築は有用な手段であった。現場の部署単位での改善をビジネスユニットへ、そして全社へと展開することのできるようなSCMシステムが構築できれば、さらに強固な地位を得ることができることになる。

しかし、こうした新しいシステムを既存の考え方・やり方で実現するのは非常に難しい。新しい考え方・新しいやり方でシステムを構築し、状況の変化に合わせて拡張・変更可能なシステムにしなければならない。このような状況において、このプロジェクトを指揮する情報システム企画室の室長補佐である甲元は「アジャイル」設計開発という選択をした。

 

こうしたシステムは現場のユーザーからいかに適切な要求を引き出し、それを確実に正確に実装するかという点が成功を左右する。この「アジャイル」の考え方に基づき、短時間でシステムを構築してそれを社内のユーザーに評価してもらうことを繰り返すことで、要求とシステムとのずれをなくすことが可能になった。また、ユーザーの要望をビジネスモデリングという形で見える形にすることで、理解の相違をなくすことが可能になった。

甲元は、この設計開発において、作成するドキュメントの量を最小限にすることを決めた。最終的に成果物として残すのはUMLで定義される図と、プログラムのソースコードのみである。UMLでは上流工程においてビジネスモデリングを利用するために利用した。また、UMLのユースケース図やアクティビティ図なども作成したが、詳細な実装クラス図やシーケンス図などは必須とはしなかった。概要設計が終われば各担当者がそれぞれ自由に詳細設計を行い、プログラムを実装した。選択したプログラム言語はJavaであった。

このプロジェクトは最初15名程度で開始した。Enterprise Architectはコーポレート版を15ライセンス導入した。このツールの選択も、甲元が決断した。

 

このプロジェクトに参加したエンジニアの多くは、UMLもJavaも知らなかった。この状況で、最初のイテレーション(各イテレーションの期間は1ヶ月)での設計開発に取り掛かった。誰が見ても実現可能性の低い設計開発計画である。

この1ヶ月という期間は、甲元が周囲に出した公約であった。「アジャイル」という過去に例がない考え方を周囲に、そして何より開発チーム自身に受け入れさせるには、この常識外れの期間での設計開発を公言し、そして成功させることが一番の方法であると考えたからである。このSCMシステムを本当に使えるものにするためには、まず設計開発の進め方を新しいものにしなければならなかった。

最先端の設計開発方法論とUMLやJavaのスキルについては、戦略的ITコンサルティングで著名なウルシステムズ株式会社と協力し、実践の中でメンバーを育成していった。

 

結果は成功。要求を出してからわずか1ヶ月で、実際に現場で稼動するシステムをリリースした。これにより「アジャイル」の可能性を周知させ、そして何よりユーザー部門の信頼を勝ち取ることができた。また、コストという意味でも短時間で仕上げたことにより、プロジェクトとしても黒字という結果になった。

 

この驚くべき成功によりシステムのユーザーもエンジニア自身もアジャイルという方法についての評価を高め、その後の3回のイテレーションもすべて成功させた。回を追うごとにエンジニアは自信を深めていった。また、このアジャイルという考え方やUMLを利用した設計にも慣れていった。最終的には、4ヶ月という過去に例のない早さで、実用に問題のないレベルのSCMシステムを構築することができた。

その後もユーザーの要望を取り入れながらイテレーションを繰り返し、現場の状況や要求に合致したシステムの設計開発および提供を続けている。現在はEnterprise Architectコーポレート版を35ライセンス利用している。今後、このシステムの横展開を進める予定である。

→後編では、プロジェクトの責任者である甲元様にEnterprise Architectに関する質問をさせていただき、回答とコメントをいただきました

利用方法概要

項目対応
利用している種類と本数コーポレート版 35本
コーポレート版の選択理由多くの関係者で共有するためアクセス権機能などを利用しようと考えていたため
(ただユーザ部門と現場でモデリングすることが多いため、オフラインで使うことが多く
実際にはRDBMSにモデルを配置していない)
利用しているUMLとダイアグラム主にUML1.4
  • ビジネスプロセス図
  • ユースケース図
  • クラス図
  • アクティビティ図
  • ステートマシン図
UML規約への遵守
データの保存形式EAPファイル
EAをカスタマイズしたか?カスタマイズなし
(今後カスタマイズする予定)
アドインは利用したか?
独自のアドインは作成したか?していない
(今後作成する予定)
EAの新しいビルド・バージョンが  
出た場合の対応
常に最新版を利用