UML/SysMLモデリングツールの選び方:3
選択の大きな3つの基準
ここでは一般論として、UML/SysMLモデリングツールを選択するときの3つの基準についてご紹介します。
機能
機能を比較検討することの必要性については言うまでもありません。対応するUML/SysMLのバージョンや図(ダイアグラム)・利用できる要素の種類などUML/SysMLに直接関連した範囲から、トレーサビリティ機能などのさまざまな支援機能まで、チェックが必須です。比較表を作成するとよいでしょう。
多くの場合には、ドキュメントの生成(Word形式など)も必要になります。チームでの設計開発となる場合には、バージョン(編集履歴)管理や排他ロックなどチームで利用する場合に役立つ機能にどのようなものがあるかどうかも重要です。
また、業務でUML/SysMLモデリングツールを利用する場合には、それぞれの部署ごとの手順(プロセス)に応じた機能拡張が簡単にできるかどうか、という点も重要です。多くのツールではアドインの仕組みやAPIが準備されていて、自由に機能拡張できるようになっています。
導入コスト・維持コスト
UML/SysMLモデリングツールの価格は千差万別です。無料のものから数百万円程度のものまで、その機能・内容・方向性によってさまざまなものがあります。ツールは設計開発のための手段なので、必要以上に高価なツールを買うことには意味がありません。しかし、無料だからと言って機能不足のツールを利用することは、結局コストが高くつきます。ツールができない部分を人間がカバーしなければならないからです。
気をつけなければならない点は、価格はツールの提供側がつけたものであり、製品の相対的な優劣を示す指標ではありません。高価な製品になると、営業活動・宣伝に関する費用や「ブランド料」のようなものが含まれている場合もあります。
さらに、ツールは継続的に利用するものですので、「買ったら終了」ではありません。継続的に利用するために、バージョンアップの場合の費用やサポート料(保守料)についてもあらかじめ検討しておく必要があります。導入時の費用はもちろんのこと、2年目以降のサポート料についても比較検討する必要性があります。
特に、使用料を払わないとツールの起動ができない「年間ライセンス」の仕組みの製品は注意が必要です。一般的には年間ライセンスは単価が安く抑えられていますが、モデリングツールは長く使うことを前提として考えるべきです。つまり、費用を支払い続ける前提で考えなければなりません。費用を支払わないと過去の資産をツールで参照・編集できない、ということは避けなければなりません。設計期間中のみ利用するユーティリティツールではなく、モデリングツールのように資産を構築し参照・編集するためのツールの場合には、年間ライセンスの場合には、自分たちが構築した資産を「担保」として提供していると言えるかもしれません。(支払わない=担保が没収される=設計を見ることができない)
サポート
そして、製品サポートも重要です。ツールを使っていく上で、すべてが自己解決できることはまれでしょう。多くの場合には、使い方がわからなかったり、あるいはバグに悩まされたりすることになります。こうしたことがあると、設計開発作業が中断あるいは遅延してしまいます。このときの製品サポートの対応によって、この中断や遅延の度合いが変わり、最終的な設計開発作業全体への影響度が変わることは言うまでもありません。
このような製品サポートについては、購入後問題が発生したときでないとわかりません。しかし、購入前でも確かめる方法もあります。検討時の不明点をツールのサポートに問い合わせ、対応時間を比較することは可能です。対応時間が遅いようであれば、製品購入後でもすばやい対応は期待できない可能性があります。
また、導入した後にツールの使い方を学ぶためのセミナーを実施すると仮定してどの程度費用がかかるかを問い合わせることも、費用の把握に有効です。
個人で利用する場合
個人で利用する場合は、大きく分けると、以下のいずれかの状況であることが多いです。
- UMLやオブジェクト指向設計開発の学習のためにUML/SysMLモデリングツールを利用したい
- 趣味などのプログラミングで設計開発時に利用したい
このような場合には、まず「そもそも有料のモデリングツールが必要かどうか」を再確認することをお勧めします。昨今は低価格のツールもありますが、それでも個人にとっては安い買い物ではありません。
世の中には無料で利用できるモデリングツールもあります。また、UML/SysMLの絵を書くことのできる汎用的な作図ツールもあります。学習のためであれば、こうしたツールを利用することで代用できます。
例えば、無料のツールとして株式会社チェンジビジョンが提供する「astah*」が有名です。そのほかにも、Webブラウザ上で動作するものも含めると、いろいろな無料のツールがあります。
法人で利用する場合
法人で利用する場合には、個人で利用する場合に比較して多くのUML/SysMLモデリングツールが選択肢として挙げられるでしょう。現在日本でよく使われているUML/SysMLモデリングツール製品は、数本程度に絞られています。価格は数万円から数百万円と幅がありますが、基本的にはどのツールでもUML2.5やSysML1.5の仕様に対応したダイアグラム(図)がすべて書けます。
選択の基準として、自分たちの設計開発プロセスにどう適合させるか、が重要です。例えば、ソースコードの生成が重要ではない場合には、多数のソースコードに対応していることは意味がありません。ソースコードの生成が重要な場合に、ラウンドトリップ開発(ソースコードを変更した場合に、既存のクラス図と同期する)ができないのは致命的です。
また、チームでの開発の場合には、アクセス制御・排他制御・バージョン管理(差分管理)などのツールの支援機能も重要になります。作成したモデルのトレーサビリティがどの程度確保できるかも重要です。
また、多くのUML/SysMLモデリングツールでは作成したモデルの情報を外部のアプリケーションやアドインから参照・編集できます。例えば、自分たちのプロセス(設計方法)にあわせて、自動的に要素の名前をチェックしてルールに適合するように自動修正する機能を追加するなどの拡張を行うと、効率があがります。
最後に
いくつかの観点から、UML/SysMLモデリングツール選択について紹介いたしました。さまざまなUML/SysMLモデリングツールを、いろいろな観点から比較してみてください。そして、「自分たちは何をしたいのか?」を満たすことのできるツールを選択することで、設計開発の効率向上につながります。